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デル・マー版ベートーヴェンSQ全集が音になる [弦楽四重奏]

軽井沢から碓氷峠をJR路線バスで下り、信越南線と高崎線を乗り継いで湾岸に戻って参りました。貧乏人と「青春18きっぷ」の熟年ばかりを乗せた満員のバスは、碓氷バイパスを30分ちょっとで走破、懐かしい横川の駅に到着する。信越線でえっちらおっちら昇っていた頃と時間はそう違わんじゃないの。これじゃあ、ここは廃線、と決断されてもしょうがないわなぁ。貨物と違って人間は勝手に歩いて乗り換えてくれるもん。貨物と違ってぶーぶー文句は言うけどさ。

さても、オーディトリアムから遙か浅間山がこんな風に望める軽井沢は大賀ホールまで出向いた目的はふたつ。
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ひとつは来月のミュンヘン・コンクールで4年ぶり(かな)に開催される弦楽四重奏部門に招聘されたヴェルスQなる桐朋の学部学生連中の様子を眺めること。なんせ、ミュンヘンはダラダラとやるので、流石にあんな物価の高い街に長逗留するわけにもいかず、2次予選からしか覗けない。どのくらいのレベルから予選が始まるか知るためにも、聴いておかんとまずいわな。

もひとつは、エンデリオンQを聴くこと。驚くなかれ、初来日。軽井沢でエルデーディ四重奏曲第1番とラズモの2番を弾くだけのための来日です。無論、ソニー財団さんがいくら太っ腹とはいえそんな馬鹿げた招聘をする筈もない。Iプロデューサーに拠れば、ソウルで仕事をしてたんで、ちょっと日本まで足を伸ばして貰ったそうな。ツアーでNYにいる連中に、マチネーの短い演奏会のためにトロント空港から3時間くらいの田舎の音楽祭まで日帰に毛が生えたような形で来て貰った、ってとこかしらね。

ひとつ訊きたいこともあった。ちょっと前に、某大手レコード輸入屋さんの熊さんから、「エンデリオンQのベートーヴェンの録音、全集で出るとのことですよ」と連絡がありました。ベートーヴェン愛好家の皆様ならよーくご存じ、この録音、世界で最初の「新ベーレンライター版楽譜使用」が売り物なんですね。
そーです、交響曲の世界で20世紀末に大旋風を吹き荒らし、なぜか日本では「ベーレンライターを使わないとモグリ」みたいな風潮さえ生まれてしまったあのベーレンライター版。その校訂をやった音楽学者ジョナサン・デル・マーが、勢いをそのままに、まずはチェロソナタ全集をつくり、続いてクァルテット全集に手を付けたのであります。

デル・マーさんとベーレンライター社の戦略は明快です。問題の多い楽譜に目を付け、現役演奏家とデル・マー氏が共同作業を行うことで、演奏現場の意見や判断を積極的に取り込んだ演奏用楽譜を作る、というもの。

チェロソナタは真面目に眺めてないので知らんが、弦楽四重奏に関しては、デル・マー氏がパートナーに選んだのはエンデリオンQだった。

かくて、昨年くらいに作品18なんぞがエンデリオンの音で出て、続いてラズモフスキーなんぞも出てきた。そこに、「全集が来月くらいに出る」との情報があった。

ええええ!なんですよ。

というのも、デル・マー校訂の新ベーレンライター版ベートーヴェン弦楽四重奏楽譜、まだ最も問題の多い後期の楽譜が出てないんだもん。

というわけで、昨日昼、久々に見切りが明快なプロの音楽を聴かせていただいた後に、大賀ホール楽屋でちょっと立ち話をさせていただいたわけです。以下、エンデリオンQの皆さんの話の要約。

★全曲の録音は既に終えている。ヴィオラ五重奏や、殆ど知られていない弦楽四重奏断片まで含んだ全集である。

★仰る通り、デル・マー版の後期作品はまだ出版されていない。だが、録音に使用したのはヘンレ版(ボンのベートーヴェン研究所の校訂による最新版楽譜)ではない。私たちはデル・マー氏と共同作業をしているので、今回の録音は、その意味では、後期も含めて全てデル・マー版である。楽譜としての出版は現時点ではまだいつとは言えない。今日明日、というものでないことは確かである。音が一足早く出るということ。

★作品18とラズモに関しては、ヘンレ版と殆ど違いはない。後期作品に関しては、音や和声の違っている箇所がある。作品132と、特に作品135はかなり違っている。

以上であります。一番の問題になりそうな作品135に関しては、こっちから「どうなってるの」と訊ねなくても、向こうから「かなり違ってるぞ」と言ってきました。やっぱりねぇ。

てなわけで、数年後に「ベーレンライター版」と「ヘンレ版」の優越を巡る議論が起こる可能性があるかも。とはいえ、指揮者という独裁者が仕切る交響曲の世界と違い、弦楽四重奏は演奏者がみんな大人だし、目の前の楽譜を4人で弄り回しているうちに結局はまともなプロの団体ならどこも自分ら独特のスコアを作っちゃってるのが現実でありますから、「へえ、この校訂者はこう思ったのか」で終わっちゃって、ベーレンライター社の(些か悪辣な)思惑は空振りとなるかもしれませんな。

なんであれ、筋金入りのマニアさんには聞き逃せない話ではありましょう。

うううん、このネタ、こんな金にならんところに書かずに、ちゃんと「レコ芸」にでも売り込んで商売のインタビューにすれば良かったなぁ。エンデリオンの連中、今朝の飛行機で成田からソウルに戻っちゃったぞ。まさかこんな大ネタが出てくるとは思わなかったから、編集者さんとはなんのネゴもしてなかった。今からでも遅くない、いかがですか、H編集者様、この話、もうちょっと詳しく突っ込みませんか?

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コメント 4

Lionbass

こんにちは。
Cb弾きゆえに弦楽四重奏についての知識はないのですが、興味をそそられる話ですね。
(シンフォニーのベーレンライター版については大いに興味あるのですが…。)
by Lionbass (2008-08-21 11:46) 

ON

今年はヴィオラ部門も開催されますね。
私は第1次予選から聴きにいこうかと思っているのですが、
セミ・ファイナルの頃には日本にいなくてはならず、
最後まで聴けなくて残念です。
by ON (2008-08-22 22:56) 

Yakupen

ONさま、そうなんですよねぇ。なんせ「コンクールのデパート」ですから。多分、小生は音楽院の方で行われるであろうヴィオラ部門なんぞは本気で眺めにはいかないと思います。アメリカ文化センターの辺りにろくな飯屋がないから、地下のカフェまで昼飯とか喰いに行くかもしれないけど。

ヴィオラの審査員、誰なんでしょか。今井さんなどいらっしゃったら、ご挨拶に顔出さねばならんぞ。

by Yakupen (2008-08-23 14:11) 

ON

今井さんは、ヴィオラ部門の審査員になっていないようです。
ヴィオラ部門の審査員は、Heike Hoffmann Vorsitzende、
Emile Cantor-Samama、Gérard Caussée、Jerzy Kosmala、
Tatjana Masurenko、Hartmut Rohde、Miguel de Silva。

予選は、ヴィオラ部門がバイエルン放送のスタジオで、
カルテットがHochschuleのようです。
by ON (2008-08-23 15:36) 

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