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香港国際室内楽音楽祭の発展 [音楽業界]

長く立ち読み下さっている皆々様はよーくご存知のように、当電子壁新聞は「書いてあることはみんな嘘、信じるな」と並び、「表のメディアで書けない事を書く」ことを標榜しております。前者同様、後者にもいろいろな意味があるわけで、それはもう勝手に解釈していただくしかないわけですが、本日これから記すのは典型的な「日本語の音楽関連メディアが記事として買ってくれない」こと。つまり、こっちは本気で表の作文にしたいのだけど、買い手側が「そんなの誰も興味ありませんよ」と買ってくれない類いの内容であります。だから、珍しく、本気の中身でありまする。以上、前口上オシマイ。

さても、連日気温17度くらいで湿度は60%くらい、こことすれば猛烈に寒い香港に来て数日。町ゆく人はジャケットどころかコートを羽織り、スターフェリーに乗るなら襟巻き巻いちゃうよ、って勢い。北緯35度近辺から来た人間には、なんか丁度良いくらいの爽やかさだよね、って感じられるんだけどねぇ。

来週末に旧正月を控え、なんとなく年末の慌ただしい空気が漂う春節前の厳冬の香港で、今から7年前に「Hong Kong International Chamber Music Festival」なるイベントが始まりました。無事に毎年開催され、今年で8回目。
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http://www.pphk.org/concerts/festival-2017/
正直、当初は、返還前から続く香港春節からイースター頃までの大イベント「Hong Kong Arts Festival」(日本では「香港芸術祭」と翻訳され、今年で45回を数えるそうな)が室内楽部門を充実させて、そこだけ一ヶ月早く開催するようになったのか、と勝手に思っていたのですけど…
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2014-01-10
ぜーんぜんそうじゃなかった。ほれ、いかにこの電子壁新聞が「書いてあることはみんな嘘、信じるなぁ」であるかを証明するような話であるなぁ!←威張れることか、と自分で突っ込んでおこー

とにもかくにも、おお、もう3年前になるのか、2014年1月に出かけて、そのときは諏訪内さんなんかが出たこともあって、表のメディアにも商売になったのでありました。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2014-01-16

困ったことにパリの弦楽四重奏ビエンナーレとモロに開催時期が重なっているため、それ以降は1月の半ばはパリと香港を交代に訪ねるようになり、ええ、今回で3度目の訪問になるのかな、香港は。

流石にこれだけの回数を重ねて見物していると、このフェスティバルそのものだけではなく、香港芸術祭との関係を含めた位置付けなんぞもそれなりに(あくまでも「それなりに」ですけど)見えてくる。なるほどねー、だったり、おいおいおいおい、だったり、ま、いろいろだけどさ。

てなわけで、香港地下鉄レッドラインの終点荃湾駅にほど近い荃湾大会堂で開催されたこの音楽祭初の郊外市民会館での公演を聴き、地下鉄と空港鉄道乗り継いで慌てて深夜便の出発に遅れぬよう急いでいるこの瞬間に、現時点での総括をしておきましょか。ま、自分のためのメモでありまする。ご関心の向きは、お覗き下さいませ。真面目に書き出すとホントに商売用原稿になっちゃうので、箇条書き風にチャチャっと。

◆香港政庁との関係

なんといってもこの音楽祭、やくぺん先生も最初は誤解していたように、面倒というか微妙というか、穏当な言い方をすれば、興味深い、のは香港政庁との関係でありましょう。なんせ、直ぐ数週間後には実質上香港の最もオフィシャルな大総合アーツ・フェスティバルたる「香港芸術祭」が控えております。かつては、ってか今もなんだけど、香港芸術祭には室内楽枠がひとつあって、ジュリアードQやらリンゼイQやら、所謂著名団体が毎年ひとつくらい招聘されておりました。思えば、ロバート・マン翁が抜けた後、初めての新生ジュリアードQを聴くためにノコノコ訪れたのも20世紀終わり頃の香港芸術祭だったっけ。

で、この「香港国際室内楽音楽祭」は、主催は御上や行政絡みの財団ではありません。主催するのはPremiere Performanceという民間団体です。こちらがディレクターさん。
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彼女のパワーだけでやってる、といえばそれまで。

じゃあ、行政とは全く関係ないかと言えば、そんなことはない。この音楽祭、メイジャーなイベントは始まる前、西暦の年明けくらいからプレイベントみたいな形で地元演奏家によるアウトリーチなどもそれなりにやっていて、なんせどこでも持って行ける室内楽、香港各地でやってるわけですよ。そういう活動も評価されてか、いつからだか知らないけど(商売原稿だったら調べるけど、こんな無料の私設壁新聞じゃそんなこと調べる手間をかけるわけにいきません、悪しからず)香港政庁の文化担当局だかがマッチング・ファンドをしてくれるようになった。ええ、めんどーなんでマッチング・ファンドというやり方については今更記しませんから、分かんない方は勝手に調べるよーに。よーは、御上が半分財政の面倒をみましょう、ということになったわけです。

となれば、当然、これまで以上にきっちり「香港市民納税者のために」公演を行わねばならない。というわけで、今回からはいままでの本拠地だった香港シティホールだけではなく、地方でも本公演をやるようになりました。で、今、その初のローカル公演としてセントラルから地下鉄で30分程行った終点、荃湾大講堂で音楽監督チョーリャンがセシルとメンデルスゾーンのニ短調トリオ弾いたり、ボロメーオQがもの凄い説得力ある《セリオーソ》弾いたりしたわけであります。
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あたしゃもう帝都湾岸にちょっとだけ戻ってますけど、明後日は最終公演として九龍の山の向こう、沙田の市民会館に行くそうな。まあ、香港市民の感覚からすれば、天理とか藤沢くらいまで来てくれた感じかな。

先程、クライバーン・コンクールで辻井氏と優勝を分けたチャン・ハオチェンくんがセシル・リカドと連弾だか始めるのを聴かずに吹っ飛んで出て来た荃湾の市民会館、構造はなんとまぁ、シティホールの大ホールとまんま同じ設計図じゃないのと思うような場所で、聴衆はそれほど多くはなかったけど、なんといっても若い人達が一生懸命聴いていたのがとっても印象的でした。1960年代の日本の聴衆みたい、とまでは言わないけど、こういう人達がきっちり歳を取っていってくれる幸せな世界が続いて欲しいものであるなぁ。

◆教育期間との関係

この音楽祭、チョーリャン氏が連れてきた演奏家でマスタークラスなどを行うという活動は最初から行っていたようですが、今回はもうひとつ突っ込んだ状況になってます。というのも、初の試みとして「レジデント作曲家」を置いたことがあります。ベルリンフィルのヴィオラ奏者だったことでも知られるオーストラリア人作曲家ブレッド・ディーンを据えて、自作をヴィオラで弾いたり、ボロメーオQに加わって自作ばかりかモーツァルトの五重奏を弾いたり。
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ええ、ご覧のように、電子譜面じゃないところにいるのがディーン氏であります。

こういう人がいるとなれば、香港警察裏というか、ジョッキークラブ隣というか、なかなかスゴい場所にある香港藝術院が放っておく筈がない。音楽院で作曲のマスタークラスをやったり、「現代音楽とは何か」だかいうレクチャーをやったり。そればかりか、今回はニックというオタク・レベルを突き抜け今やボンのベートーヴェンハウスも本気で作業に強力している奴のやってる、東京の聴衆もお馴染みの「ベートーヴェンのオリジナル譜面には、校訂者が捨ててしまった情報が山のようにあるぞ」話をやるターゲットもいるわけです。で、当然、後ろにオリジナル譜面を投影しての《セリオーソ》演奏、なんて演奏会も音楽院ホールでやる。
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こういうことが出来る、それも英語で一切通訳無しでやれるわけだから、それに反応できる聴衆がどれだけいるかはどうあれ、スゴいことになってるわけですわ。

なお、ボロメーオQはふたつの学生団体にマスタークラスも行いました。彼らの到着前に《セリオーソ》でアウトリーチなんぞをやってたのは、ヴィルタスQ(おおおおおお!)なる名前のマカオの子がファースト弾く団体で、いやぁ、こてんぱんというか、ガッツリやられてましたねぇ。全然めげてなかったけどさ。

◆「アジアの室内楽」としての位置付け

中身的に最も重要なこと。8回目となる今回、メイン会場をこれまでのシティホールの大ホールから、上の劇場に移動し、規模を室内楽として適正化しました。これが入口で
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上のボロメーオQとディーン氏の五重奏の写真がステージ。やはり集客で厳しい室内楽、日本フィル香港公演もやった大ホールは流石に大きすぎる感があったのが、こちらは適度のパツパツ感で遙かによろしゅーありまする。響きは…まあ、聞かないで下さいな。でも、広すぎて聞こえないよりは余程良い。うん。

そんな中で展開されたアンサンブルは、ボロメーオQみたいな「出来上がった団体」が質をしっかり保証する一方、これまではどうしても時間が足りない感が漂っていた「こっちに来てから必死に練習しましょう」アンサンブルの中身が飛躍的に良くなりつつあるのが印象的でした。チョーリャンとか重鎮がともかくまとめる、というのではないレベルの再現がなされるようになった。特に印象的だったのは、Haochen Zhang, Kristin Lee, Cho-Liang Lin, Brian Chen, Li-Wei Qinというオールアジアのメンバーによるフランクの五重奏でした。個人的には好きかと問われるとハイとは言いにくいが、ある種の水準はあり、ある種の説得力はあるから、「俺はあれは嫌いだ」とも言えるレベルの演奏。もしかしたら、かつて20世紀後半に日本の一部エリートマニアさんが「アメリカの室内楽」と唾棄したような音楽は、21世紀には「アジアの室内楽」と言われるんじゃあないかい、とすら妄想しちゃったりして。←わああ、すげええネガティヴ評価に聞こえるなぁ…

そんなこんな、来年以降もこの時期に予定される「香港国際室内楽音楽祭」、こんなに気候の良い香港も珍しい時期ですので、お暇な方は是非どうぞ。

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