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プロパガンダ・アートを見物する理想的な環境とは [現代音楽]

これを「現代音楽」とするとショスタコーヴィチなんかも全部入っちゃうんだけど、ま、一応、このカテゴリーにしておきましょうか。

暦の上でも春になった如月、既に1週間を過ぎ、着々と春が近付いている今日この頃、春と言えば税金の季節でありまして、今週はひとつ某誌に提案していた原稿をやるかやらないか判断待ちだったのだが、どうもボツになったようなので、それに予定していた時間をば日本国民の神聖なる義務、納税作業に充てることにするべぇか。ってなわけで、領収書広げてもぶんちょうくんたちがどっかに運んで行ってしまわない葛飾オフィス厄偏舎に籠もって作業をしようとするわけだが、まあ毎度ながらどうにも追い込まれないとやる気が起きない作業でありまして、蜜柑下さいって顔して柿の木からこっちをずーっと眺めてるひよちゃんとにらめっこしながらぼーっとしてるわけでありまする。ホント、こんな早くから手を付けようとするとまるでやる気が出ないなんて、日本国民として恥ずかしいぞ、あたしっ!

そんなわけで、まずは膨大な領収書の仕分けでありまする。こういう単純作業にはBGMが必要と、まずは朝からNMLに入ってたラトル指揮の《ロジェ王》を全部聴き、さあ午後からはどうしましょう、そうそうちゃんと勉強しておかないと、と赤くでっかいボックスを収納棚から取り出し、パカッと開けてがらがらの中に入ってるディスク2枚、1枚は音だけのCDで、もうひとつがDVD、そー、かの文化大革命時代に上演が許されていた数少ない西洋オーケストラによるバレエ《紅色娘子軍》を見物しながらやるべぇか。で、天安門マークで始まる映像をちょっと眺め出すも、ダメだ、映像付きでは領収書分類仕事が出来ぬわい。

というわけで、そこにあるCDを単にトレイに突っ込むのもつまらぬので、まさかと思ってNMLを調べてみたら、なんとなんと、バレエ全曲録音が2種類の違った演奏で収録されております(ぶっちゃけ、上海バレエ管弦楽団って団体が弾いてる短い版の録音の方が全然じょーずです)。流石、実質上20世紀に君臨していた世界のメイジャーレーベルを全てぶっつぶしてしまった中国パワー、香港資本のナクソスだけあるぞ!

なんでそんな妙てけれんなものを聴くのじゃ、と訝しくお思いになる方もいらっしゃるでありましょうが、なんのことはない、この作品の鑑賞こそが、来週頭から2週間程日本列島を離れる短いツアーのメインイベントなのでありまする。はい。

昨年の暮れにオーストラリアはメルボルンで《リング》見物に行った際、年明けの春節頃から「アジア芸術フェスティバル」が開催されると宣伝が出ていて、そのメインの演目のひとつが北京のプロダクションによる《紅色娘子軍》オーケストラ伴奏による全曲舞台上演なのでありました。おおおお、これは観たい、みたい、ながめてみたああああい!

ご存知の方はご存知のこの作品、人民解放軍の制服を着たバレリーナがライフル抱えて踊りまわるというイメージ、一頃は文化大革命を象徴するアイコンとして盛んに用いられたことはある世代以上ならご記憶にあるでありましょう。
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有無を言わせぬ堂々たる恥も外聞も無いプロパガンダ芸術の20世紀後半に於けるひとつの典型でありまする。海南島で国民党と繋がる悪い地主に虐められた娘が、赤軍と出会い、己の個人的な怒りや恨みではなく中国人民解放に向けてみんなで力を合わせよう、と高い意識に目覚め、人民解放軍に娘子軍を結成し悪い地主をやっつける、というステキなお話でありまする。クライマックスでは《インターナショナル》の断片がフルオーケストラで高鳴ったりしてさ。ピアノ協奏曲《黄河》と並び、人民中国初期の音楽芸術作品ウルトラ著名作の双璧のひとつでありまする。

ふううう…

ま、この舞台、歴史の文脈を越えて生き残り、今でもスタンダードとして中国では上演されている。中国のバレエ業界とすれば、《白鳥の湖》やら《胡桃割人形》やら《ジゼル》みたいなもの…なのかしらね。ともかく、今でも作品としてしっかり生きていて、国慶節の頃には北京の国家大劇院で上演されたりしている。

なにより有名なのが、訪中したニクソン大統領とパット夫人が見物に連れて行かれ、その様子がジョン・アダムスの《中国のニクソン》に使われていること。ホント言えば、やくぺん先生の関心はそっちからです。あの妙に盛り上がるバレエのシーンは、果たしてどれくらいがアダムスの創作なのか、あのオペラを作るにあたりセラーズはこのバレエのオリジナルをどれくらい意識していたのか…以前から気になって仕方なかった。まさか、あの盛り上がりはオリジナルまんまなんじゃなかんべーね、ってさ。

今回、メルボルンに来るのは、現在北京で上演されている「21世紀初頭の最もオーセンティックなプロダクション」みたいでありまする。
https://www.asiatopa.com.au/events/the-red-detachment-of-women
オケは国家大劇院管弦楽団じゃなくて、メルボルンの地元オケらしいけど。おいおい、この前は《リング》弾いてた奴らが、こんどは19世紀後半の国民楽派バレエの超本気のパロディみたいな楽譜かいね。せっかくだから、映像。こんなん。完全に「戦闘美少女の精神分析」の世界でんなぁ、いまどきの秋葉原で流したらミリタリー・オタや兵器美少女キャラ化マニアさんが熱狂しそう。

んで、そんなもん、見物するならわざわざメルボルンなんて行かなくても北京まで2時間半のフライトで済むでしょうに、って思うでしょうねぇ。

だけどね、こういう「プロパガンダ・アート」ってのは、鑑賞するのは案外と面倒なんですよ。国慶節の北京で、正に本場物の上演を眺めるのがいちばん良い、というものでもないかもしれぬ。無論、いちどくらいはそういう経験をするのは意味があるだろうけど、作品を受け取る側の空気やらを眺めるのが目的ならばそうあるべきだが、あくまでも純粋に「舞台芸術作品」として見物しようとすると、いろいろとフィルターが架かってしまう可能性がある。それなら、そんなものが一切ありようがない異国での引っ越し公演、観る側も何を期待しているわけでもなく、ことによるとなーんの予備知識も予見もない観客の中に紛れて見物する方が、よっぽど気も楽であります。

そう考えると、このメルボルン公演、案外とないチャンスなのかもしれないぞ。

ってなわけで、当初は1月にヒューストンでロベルト・スパノという超立派な棒で上演される《中国のニクソン》も見物し、その勢いでメルボルンに乗り込んでやろうじゃないか。さらには3月頭にロスフィル定期演奏会で作曲者の指揮で演奏会形式上演されるのも眺めてやるか、なーんて考えたのだが、ま、結局、計画はどんどん萎んで、なんとかメルボルンだけは眺めておこう、ということになった次第。

本場物であるからこそ、本場では眺めない方が良いものもある。ショスタコはロシアのオケよりアメリカのオケの方が良く判る、なんて意見もないわけではないですし。そんなもんです。

さても、その前に、少しでも税金作業を処理しましょうか。ぐぁんばれ、あたしっ!にっくき…誰をやっつけるんじゃ?

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燕京啤酒

ご無沙汰しております。

はい、私は国慶節など折に触れて上演される本場物を見て楽しんでおります笑
私も映画から始まり、バレエはもちろん芝居も観に行っております。
そういえば、2年ほどまえに日本でも公開されたチャン・イーモウ監督の「妻への家路(帰来)」でも、前半の文革時代はこのバレエが引用されていて、思わず喜んでしまいました。

by 燕京啤酒 (2017-02-09 11:00) 

Yakupen

燕京啤酒様 ご無沙汰でございます。北京も、考えてみたらもう数年行ってません。だって、行こうとすると「大気汚染で死ぬぞ」と家族に止められる(笑)。

このプロダクション、中国、ってか、北京ではどういう位置付けなんでしょうか。数年前に「初演半世紀」というイベントをやってたような、そのときも行こうかと思ったんですけどねぇ。あの話、天安門以降の世代はどういう風に感じてるんでしょうか?リアリティがあるものなのか、それとも「歴史物」なのか。ま、そういうところを含め、プロパガンダ・アートというのは受け取る側の問題というところが大きいですから、判らんですなぁ。

今年はなんか足を踏み入れそうな気がしています。その節は。

by Yakupen (2017-02-09 11:47) 

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