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ローカルな演出というもの [音楽業界]

今、香港国際芸術祭参加公演、ブルノ歌劇場プロダクションの《マクロプウロス事件》(この作品、日本語では《マクロプロス事件》と記されるようですが、やっぱり今日も「マクロプゥロス」と歌手さんは発音していたみたいなんで、Μακροπουροσなんだろうなぁ、ギリシャ語表記は)を見物して戻って参りました。
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先週からの短い環太平洋圏ツアーの最後に相応しい、充実した舞台でありましたです。ちなみに、香港の地下鉄ホームやらコンコースやらにめったやたらと出ている上の広告、舞台写真としては、ちょっとポイントを外してる絵ずらなんですよねぇ。だって、ここにでっかく出てる2人って、主人公でも中心となる歌手でもなく、脇役なんだもん。どうしてこーなった、って感じ。

この作品、有名なんだかどうだか、「《牝狐》を書き終えた晩年の充実したヤナーチェクが、あのチャペックの戯曲を舞台で眺めて、生と死の価値を巡る深遠な議論をサスペンス・ドラマに持ち込んだ」というお題目はそれなりに知られている作品だけど、《イエヌーファ》とか《カーチャ・カヴァノヴァ》みたいに判りやすい話じゃないんで、そんなにやられてるわけではない。《牝狐》とか《ブロウチェクさん》みたいに上手く舞台に出せればいろんなこと起きて面白いもんでもない。なんせ、ヤナーチェクの全ての作品、ってか、過去に「オペラ」という形で書かれた全ての作品の中でも、最も言葉で語られる内容が複雑な作品のひとつですからねぇ。ドイツ語とかイタリア語みたいなオペラの世界でのメイジャー言語ならまだしも、チェコ語です。この前の《ロジェ王》のポーランド語というのも困りものだったど、あれはまあぶっちゃけ言葉が分からんでもなんとかなるギリギリくらいだった。だけどこの作品は、その後に大流行となる所謂「文芸オペラ」の嚆矢といえるだけに、猛烈に台詞が重要になってる。普通に考えれば、とてもじゃないけどオペラにする必要があるとは思えない内容でありまする。

で、やっぱりドイツ語圏、フランス語圏なんかの尖った演出をする方々にしてみれば、余りにヘビーなチェコ語の奔流にどう対処するかが腕の見せ所になるんでしょう(本日は広東語と英語の字幕、もう読み取れないくらいの超高速でぶっ飛んでいました)。んで、ともかく家系を巡る複雑なやりとりなんかを横に置いて、「長すぎる人生は生きるに値しない」ってテーマを真っ正面に出すために、いろんな仕掛けをする。で、今、いちばん簡単に観られるザルツの数年前の演出みたいな、本来のト書きにはない別の芝居をやってみる、なーんて、演出家の自意識過剰一歩手前の荒技もありえちゃったりする。

さても、本日の舞台は、ブルノ歌劇場という、現在考えられる限り最もオーセンティックなプロダクションでありまする。とはいえ、ブルノ歌劇場は普通の意味での世界のメイジャー劇場ではない。正直、オケはまあ、いろんな突拍子もない音たりしていることもあるし、何よりも所謂ブランドオケに比べれば全然音量がなかったりします。でも、実質上のレシタティーヴォとそうじゃない箇所の区別、コミックなシークエンスでの空気の変化などなど、ポイントは滅茶苦茶押さえてるなぁ、という演奏。

ブルノ歌劇場のこのプロダクションって、今時の世界のメイジャー歌劇場やオペラカンパニー、音楽祭のほぼ全てが行っているような、制作資金を出し合ってみんなで新しいプロダクションをつくる、という作業をしているようには思えませんでした(そういう情報は一切プログラムにもなし)。田舎のカンパニーだからね、と皮肉を言えばそれまでなんでしょうが、結果として、完全に「チェコ語を母国語とする人を前提にしたプロダクション」になっている。ぶっちゃけ、言葉が分からないことのいろんな手仇助を他のことでするつもりなど毛頭無い。妙な小細工をすることなく、ホントにストレートに中身を舞台にする。それで、へんなところにひっかかることなく、この作品のパワーがきっちり伝わる。

そういうことが出来るのは、外国の歌劇場との提携もなければ、外国に持ち出すことなどを考えていないからなんでしょう。その意味で、猛烈にローカルな舞台。香港に持ってきて、言葉が分からない聴衆の前で披露するにしても、もうこれはこれだから仕方ない、って割り切るっかない。

久々にとても潔い舞台だなぁ、と思ったですよ。

ちなみに、中身的な「演出」というか「解釈」でも、極めて面白いこともしています。ネタバレになるからこれから眺める人は読んじゃダメなことだけど…最後の最後、300年生きる秘薬のレシピは破棄されないまま、放り出されてオシマイになります。ヒロインが300年を越える人生を終えた後、舞台に残された人々がどういう行動を取るのか、オープンなままで終わっている。チャペックの原作とも、ヤナーチェクの改定とも違う結末、ってことでんな。

つまり、今時の「演出家の解釈」はちゃんとやってるんですよ、この舞台。でも、あくまでもローカルなプロダクション。ローカルに徹したからこそ出て来る説得力。

恐らく、このプロダクションが映像パッケージになって世の中に流れることはないのでしょう。でも、これは観るに値する舞台です。お暇がある方は、明後日の午後7時半からもう1公演あるので、いらっしゃる価値はあります。まだチケット、あるみたいだし。

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コメント 2

出帆竹

シグマは語末ではもう一個の方ではないでしょうか?
私の勘違いでしたらごめんなさい。
by 出帆竹 (2017-02-24 19:34) 

Yakupen

出帆様

仰る通り、でも、うちのワープロ、出せないんです、なぜか。おいおい、ですけどねぇ。学部時代に古代ギリシャ語とラテン語なんぞをやらされずに、ちゃんとフランス語とか中国語をやっておくのだったと人生を反省することしきり。
by Yakupen (2017-02-25 10:47) 

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