So-net無料ブログ作成

ラヴィニア音楽祭の6公演キャンセルについての考察 [音楽業界]

一昨日から始まったラヴィニア音楽祭のレイバーデー週末弦楽四重奏関連公演全てキャンセル騒動、まさかこんなことが起きるとは常識的には考えられないので、宿は全部FIX変更不可の最安値で予約していたやくぺん先生、結婚30年記念旅行も兼ね、ケチりながらもそれなりにちゃんとしたところを準備してほくそ笑んでいたために、結果としてなんのかんので20万円に迫る大損失となることが確定しました。この出費を少しでも意味のある出費とすべく、「20万円弱払ってお勉強した、良い経験をさせて貰った」とちょっとでも思えるように、事態を考察してみようではないか。うん、…猛烈な強がりだなぁ…

さても、今回の事態の事実関係を整理すると、以下。

1:レイバーデーの休みが始まる金曜日から日曜日まで、パシフィカQは5回のフルコンサートでベートーヴェンの弦楽四重奏全曲を奏破する「トーキョー・スタイル」のサイクルを行うことになっていた。ところが、メンバーのひとりの近親者が重篤だそうで、とてもじゃないが演奏会を開けるような状況ではない(恐らくは、開いてもいつキャンセルになるか判らないような状況、ということでしょう)。で、サイクル全体がキャンセルとなった。交代の演奏会は用意されない。

2:パシフィカQがサイクルを終えて、第1次黄金時代のメンバーでの最後の演奏が終了した翌日、レイバーデーの休日の9月4日、言わずとしれたベネズエラのエルシステマ、シモン・ボリバル管首席奏者から成るシモン・ボリバルQの演奏会が予定されていた。ところが、既に以前から報じられているような祖国ベネズエラの政情不安、実質上の内戦状態への突入を受け、この演奏会を含むクァルテットの北米ツアーがキャンセルとなった。代役出演などはなされず、コンサートそのものが中止となった。

結果として、4日間でクァルテットのフルコンサートが6つ用意されていたものが全てなくなり、ラヴィニア音楽祭では交代の演奏会も全く用意されない事態となった。この間、他のポピュラー系のコンサートは予定通りに開催されているようである。

さても、以上のような状況について、「室内楽のコンサートを制作する(含むパシフィカQの「トーキョー・スタイル」ベートーヴェン・サイクル)」という現場仕事から隠居し学校の先生になったうちのお嫁ちゃんとぐだらぐだらと話したわけでありまする。反省会、というわけじゃないけどさ。んで、いくつかのクリティカルポイントがあり、いくつかの重要な決断があって、この事態に至っているわけで、それを「主催者」視点で眺めていくと、納得いかないとまでは言わぬものの、どうしてそういう判断をしたのか理由を知りたい、と思わざるを得ないところがいくつかある。

さあ、全国世界津々浦々のアートマネージメントを学ぶ皆様、ラヴィニア音楽祭の「夏の終わりの週末に予定された演奏会6つ全てキャンセル」という決定、何が問題なのでありましょうか?はい、休み明けまでに原稿用紙4枚で提出しなさいっ!ちゃんちゃん

※※※

…って、終わりにしてしまえば話は楽なんだが、いかな無責任私設電子壁新聞といえど、まさかそういうわけにもいかんじゃろーなぁ。明日からの新潟での学部生対象のアートマセミナーで嫁ちゃんが発表します、ってのも無責任にも程があるし。

以下はお嫁ちゃんの意見というよりも、なんのかんの話しをして、やくぺん先生なりに纏めたものとしてお読みあれ(まだこんなもの読んでる方がいらっしゃれば、だけどさ)。

ええ、結論から言えば、この主催者側の決断のポイントは、「レイバーデー休暇のクラシックイベントを皆無にした」という点にあると言えましょう。一応は世間で言うところの「クラシック音楽」のハンドリングをしてきたうちの嫁ちゃんとすれば、そこがいちばんショックというか、ビックリというか、どういう事情があったか知らぬがこんな決断よくやったなぁ、と思うところのようでありまする。やくぺん先生も同意見であります。

パシフィカQやシモン・ボリバルQ側が(本人らかマネージャー経由かはともかく)「キャンセルしたい」と言ってきた事情は、それはそれで共に仕方ないといえばそれまで。「それじゃ困る、なんとかしてやってくれ」とラヴィニア音楽祭側が言ったのかどうか、現時点では不明(いずれ、誰かから聞き出そうとは思ってます)。ただ、これはダメだ、という判断に傾きかけた瞬間に、普通のクラシック音楽主催者ならば、「さあ、代演はどうしよう?」と考え始めている筈です。

ポピュラー系の極一握りのビッグ・スターのような「アーティストがそこにライブで存在していること」が何よりも大事なイベントとしてのコンサートなら、そのスターが出ないとなった瞬間に全てオシマイ。代役もなにもありません。エグザイルのコンサート、嵐のコンサートは、エクザイルや嵐が出て来るからアリーナに数万の席を用意し、膨大な量のグッヅを並べ、飛行機に乗ってやってくる聴衆を相手にすることになる。エクザイルの代わりにポール・マッカートニーが出てきても、嵐の代わりに奇跡のSMAP再結成があっても、数万の観客のうちの9割以上が不満を漏らし、暴動が起きるだけでしょう。それ自身が価値を生み出す「スター」は、交代が効く存在ではないのでありまする。

翻って、クラシックコンサートの場合はどうであろーかっ。もの凄く単純な二者択一にしちゃえば、「レイバーデーの休日の3日間、シカゴ郊外のラヴィニアに集まるつもりだった数百人の聴衆は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を聴きたいのか?それとも、パシフィカQが聴きたいのか?」ということ。
もっと具体的に言えば、「ミロQやらボロメーオQやら、ベートーヴェン全曲短期集中演奏をレパートリーにしているパシフィカQと同クラス若しくはそれ以上(あくまでもギャラの観点)の団体をなんとか呼んできて、やってもらうわけにはいかぬのか?」ということです。

こここそが、音楽祭のプロデューサーなりディレクターなりの腕の見せ所になるわけですよ。

そこで思い出すのが、数年前の松本、セイジオザワ音楽祭に生まれ変わった最初の音楽祭での決断です。殆どレパートリーに持っている指揮者がいない、でも小澤氏としては積年の宿望だった《ベアトリーチェとベネディクトゥス》の本番に向けた練習開始を前に、小澤氏が風呂場で倒れてドクターストップになった。ここで、「小澤さんがダメならしょうがないよねぇ」と中止にするという考えもあるでしょう。まあ、お客さんは文句を言うだろうが、払い戻しをすれば済むことだしさ。だけど、プロデューサーの森安さんは、中止にするつもりはなかったという。この曲を振れる、この時期に身体が空いている、この猛烈に厳しい条件をクリアー出来る指揮者をともかく探して、公演は中止せずにやった。結果に関しては、プロデューサーが責任を負う。

ま、その結果、どういう理由かは知らぬが、この音楽祭では新たな大規模なオペラのプロダクションはもう行わないという判断になり、事実として今、サイトウキネン第1回目の伝説の《オイディプス王》からずっと松本のオペラ制作を続けた森安プロデューサーは松本を去りました。直接の因果関係があるかは知らぬものの、業界の常識として見れば、それがプロデューサーという仕事の在り方であることは確かであります。

セイジオザワ音楽祭でのメイン演目たるオペラ新制作と、シカゴ響を中心に据えクラシックからポピュラーまで幅広く夏のシカゴ郊外で開かれる巨大なラヴィニア音楽祭でのブルーミントンの室内楽グループのベートーヴェン全曲演奏とが、音楽祭にとって同じ比重があるイベントではないことは百も承知です。とはいえ、音楽を聴きたいという聴衆とすれば、きちんとした大規模なオペラ上演と弦楽四重奏の演奏とに、違いはありません。
それは違うだろう、と言った瞬間、その人はイベント・プロデューサーではあるかもしれないが、少なくとも室内楽のプロデューサーではない。

確かに条件は厳しいでしょう。なんせ、こんなサイクルをいきなりやれと言われてやれる奴ら、世界に片手の指ほども居る筈が無い。パシフィカQにしたところで、今も忘れない、ニューヨークでの彼らの演奏会のあとに飲んでるところで、お嫁ちゃんが恐る恐る「数日間で5つのコンサートでベートーヴェン全曲、やれる?」と切り出したら、ブランドン御大、「そんなの無理」と瞬殺だった。その後、いろいろ話を重ねて、よおおおし、今しかやれない無茶な企画、やってやろーじゃないかぁ、ということで、溜池室内楽お庭の名物となった現役バリバリ演奏団体に拠るベートーヴェン短期集中全曲チクルスという無茶な企画が始まったわけです。今回、ラヴィニアまで日程の無理を押して出かけるつもりだったのも、パシフィカQ黄金時代の最後となるチクルスを見とどける責任があるだろー、ということだった。

もとい。ラヴィニア音楽祭だってなにもしなかった筈はないだろー。誰か出来そうな奴らはいないか、あちこち連絡したのでしょう(←常識からの想像!)。どの団体も休みになっちゃっててダメと判ったら、せめて全部は無理でも毎日ひとつくらいの演奏会は作れないか、パシフィカQに弟子筋を紹介させたり、シカゴ近辺の若い連中に声をかけたりしたのでしょうねぇ(←繰り返しますが、あくまでも常識からの想像ですう!)。例えばヴェローナQなんぞがひとつの演奏会だけでも弾くというなら、ぶっちゃけやくぺん先生とお嫁ちゃんはシカゴまで行ったでしょう。本音、大喜びで!

ところが、同じグレードの若手団体の緊急招聘はパシフィカQよりも遙かに楽だと思えるシモン・ボリバルQを含め、ラヴィニア音楽祭は代演のコンサートを行わなかった。

どーしてなんだろうか?

例えばこれがソニア・ジメナウアー事務所の仕切りだったら、ソニアおばさまはまず確実に代演を用意したでしょう。多少の無理を言おうが、日程のずらしがあろうが、カザルスQを引っ張ってくるとか(最も現実的な案)、シューマンQに「これはリスクも大きいがチャンスだと思え」と説教するとか、なにかしらの動きをするであろうことは容易に想像できます。それが室内楽のプロデューサーというもの。

だってさ、みんなが聴きたいのは、ベートーヴェンなんだもん。パシフィカQはあくまでも、間に介在し、楽譜を音に再現し、伝えるための存在に過ぎない筈だもんさ。

腹が減ってきて頭が動かなくなってきたので、もうこれでオシマイ。ともかく、このラヴィニア音楽祭の決断、いろいろと考え始めると奥が深い、日本円20万円なりくらいの価値は充分にある大きな問題を「経験」させて下さったわけでありまする。

…とはいえなぁ…うううん、今年はもう、超緊縮財政だなぁ。ふううう…

nice!(3)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽

nice! 3

コメント 2

Macky

予約変更の出来ない格安FIXで予約すると必ずリスクが伴うのは常識です。
最初は予約変更やキャンセル出来るもので予約しておいて、直前に直前割引が出たら変更して乗り換えるというのも一つの方法ですよ。
航空券はともかく、最低でもホテルだけはそうした方がリスク少なくて済むはずです。
私はそうしています。
by Macky (2017-08-19 09:26) 

Yakupen

Macky様

こんなアホみたいな作文を立ち読みいただき、お疲れ様でした。仰る通り、1週間とかの滞在をFIXにするのはアホというのが常識なんでしょうねぇ。

とはいえ、これだけの大きなイベント、キャンセルにする方が非常識とも言えるのでありますよおおお!普通の主催者なら、全部を拾うのは無理でも、1日にひとつでもなんとか代演を手配する、というのが常識。それほどあり得ない決断だった。

その意味で、いくら払ってもしかたない勉強だった、とも言えます。ちなみに、うちの業界は演奏家逝去とか政変とかでもない限り「イベントそのものの中止」というのは極めて少ないのです。「演奏会中止」というのは主催者側とすれば恥なのですよ。ですから、小生は結構、長期滞在をFIXで予約する、というのは普通にやってます。非常識、と言われればそれまでな業界なのですかねぇ(笑)。ま、笑ってやって下さいませ。

by Yakupen (2017-08-19 09:49) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。