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無伴奏のアウトリーチ [演奏家]

ホントならいよいよシカゴ郊外はラヴィニア音楽祭でパシフィカQの「トーキョー・スタイル」ベートーヴェン弦楽四重奏全曲演奏会が始まろうという日に、何の因果か、日本列島は東北地方をウロウロしております。端的に言えば、「被災地」だったところ、というか、今も現実的には「被災地」でありつつげ、正直言えば、別の場所になりつつあるところを、駆け足で北上しています。

シカゴがキャンセルになったとき、余りのことにぼーぜんとしつつ、これではいけん、これはきっと神様が下さった何かのチャンスなのだ、これまでやらにゃならんと思いつつもいろんな都合で出来なかったことなどをやりなさい、ということではあるまいか…と強引に思いっきり前向きな気持ちになってあれこれ眺めれば、前から気になっていた演奏会があるではないかい。

面倒な説明はする気もないが、まあ、要は、このところベルリンでフィルハーモニーでなんか聴こうとか、オペラを見物しようとかすると、何だかいつもその前にあって麦酒ジャブジャブ飲んで、お陰で半分酔っ払って会場に駆け込むことになり、結果としては客席で半ば沈没、という醜態を繰り返しているわけでありますがぁ…その酔っ払い相手たるベルリン在住の音楽家さん、マインならぬオーデル河沿いの方のフランクフルトのオーケストラで第2ヴァイオリンソロ首席をお弾きになってる(って、よくわからないのだけど、日本語ではそう書いてあるなぁ…)小林正枝さんというヴァイオリニストさんが、ご自身の田舎(東京生まれだけど、お母さんの実家があり、子供の頃は盛んに帰省していたそうな)たる石巻でアウトリーチをするという。会場は震災で流され、やっと昨年に駅前に再建された石巻市立病院、そー、所謂「被災地アウトリーチ」でんがな。

ええ、やくぺん先生、311震災及び312福島原発炉心融解事故以降、東北の各地で盛んに開催されている「被災地アウトリーチ」に関しては、ぶちゃけ、意図的に避けてきました。ギトリス御大なんぞには殆ど首根っこ捕まれて引っ張っていかれそうになったのもなんとか逃げ切り、無論、ルツェルンもサントリーのヴィーンフィル以下、都響からなにからあれこれやっている大規模なものも、電話取材やら演奏家さんのインタビューで纏め記事的なものをやったことはあるけど、具体的に見物に行ったりしたことはなかった。盛岡の駅で被災ピアノの再生やったりしてる方の話をきいたりとか、ユースオケ絡みのことをなさってる方からいろいろ言われたとか、無論、チェロの丸山氏を筆頭に自分なりの高いモーティヴェーションで個人的にいろいろやってる方もいる。そんな方々から、みにきてよ、と言われることも珍しくない。

だけど、正直、なかなか難しいなぁ、と思っておりました。見に行くのは簡単だけど、そこで見て、いろいろ思ったことをどういう形に出せるかというと、実はこれは案外と難しい。「良かったですねぇ」とか「感動しました」とか言うのは簡単だし、実際、きっとその通りなんでしょう。だけど、どれを言ったり書いたりするのは、あたしの役回りじゃないしねぇ…

んで、この小林さんのアウトリーチも、酒飲み話で(妙な意味ではなく、ホントにいつも「酒飲み話」になってしまうんで)始めの頃から耳にはしていて、うん、一度眺めたいけどさぁ…なんて繰り返してた。

そしたら、あらまぁ、シカゴ行きがなくなったその頃に、小林嬢がベルリンから帰国中で、石巻の彼方此方で弾くって仰ってたのを思い出した。なるほどねぇ…

あれこれあれこれ、なんのかんので、本日、遙々石巻を訪れるに至った次第でありまする。

石巻駅前のこのピカピカの病院でアウトリーチが行われるに至った経緯とか、なんでそこに小さなグランドピアノが置いてあるのに無伴奏なのかとか、いろいろ書き始めればキリがなく、それはそれで極めて興味深い(かつ、何かと語弊も多いことがありそうな)話であることは確か。んで、めんどーなんで全部吹っ飛ばし、案外とありそうでない「無伴奏ヴァイオリンのアウトリーチ」というところに話を絞っちゃいましょ。

実は、お恥ずかしいことに、やくぺん先生としましては、「無伴奏ヴァイオリンのアウトリーチ」って、初めて聴いたです。ありそうで、案外、ない。ヴァイオリニストが楽器持ってきて、そこそこ響く場所に人を集めて弾けばいいだけだから、アウトリーチの技術的には極めて簡単です。椅子や譜面台だっていらないんだもんさ。

だけど、まず、やられない。そりゃ当然、やられないにはわけがある。この駄文を未だ立ち読み中のアートマネージメントの学生さん、考えてご覧なさいな。

小林嬢のアウトリーチ、会場は病院の受付ロビーです。うるさそうに思えるけど、1階からエスカレーターで上ったところで、意外にもそんなに騒々しくはありません。空間はたっぷりあるので、車椅子の患者さんの隻もいくらでも作れるし、それどころかベッドに寝たままの患者さんが複数並ぶ空間だって用意出来る。点滴したままいらっしゃる方もなーんの問題も無し。病院アウトリーチのある種の息苦しさ、狭っ苦しさはまるっきり感じさせない空間でありました。

奥からバッハのガヴォットを弾きながら出てきた小林さんは、ベッドに寝た患者さんの近くに寄り、ひとりひとりに聴かせるようにしつつ受付前の空間に立ちます。
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それからは喋りを交えつつ、まずはクライスラーの無伴奏ヴァイオリン曲、それからおもむろに、バッハの《シャコンヌ》であります。あとは、《赤とんぼ》で終わる日本叙情歌メドレーなんぞ、で、アンコールはこちら。アンコールだから、アップしちゃっていいですよね。

いやぁ、確かに、無伴奏のアウトリーチって、難しいです。でも、なにしろ《シャコンヌ》という最高のレパートリーがある。どんな聴衆であれ、ヴァイオリニストがきっちり本気で弾けば、その凄さは絶対に伝わるという究極の演目。難しいと言われても、難しくてもほらこんなにスゴいでしょ、と開き直れるだけの演奏をしてしまえば、もうみんな、「ああああ、なんかわかんないけどスゴかったねぇ」と満足して帰っていただける。

他はみんなオマケ、と思わせられる演目って、ありそうでないでしょう。ホント、勉強になりましたです。

さて、明日は会津若松の公民館のようなところで、有料の演奏会だそうな。小林さんによれば、この前は無料で、震災復興というような枠組もつけたのですけど、きちんとした演奏会を聴いていただくということが大事だろうと考えて、今回は敢えてそうしなかったとのこと。誠に正しい判断だと思いますです。

さても、今、大船渡のホールのプロデューサーさん吞むべく、気仙沼駅ホームで最後の乗り換えを待ってます。駅には誰もおらず、風は冷たい秋模様。ジャケット引っ張りだし、大船渡線BRTバスが来るまであと少し。あ、明日は「防災の日」だっけ。

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