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パガニーニ・セットが鶴見で鳴ります! [弦楽四重奏]

緊急告知です。っても、業界的には緊急だけど、普通にチケットを販売するという意味ではまあ、適切な時期の発表なのかな。

来る7月4日、今やトウキョウ首都圏どころか日本の弦楽四重奏の聖地となりつつある横浜は鶴見、サルビアホールで、かつて東京Qが鳴らせていたあのストラディヴァリウス、所謂「パガニーニ・セット」が響くことが決定しました。演奏するのは、所有する日本音楽財団から現在この楽器セットを貸与されているクレモナQであります。なんと、初来日らしい。
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写真は、この前のアムステルダム・クァルテット・ビエンナーレの「アーリー・ハイドン」に出てきたとき。立って弾いてます。無論、これがその楽器。

現時点では7月2日にクローズドの演奏会が予定されており、一般公開のコンサートは鶴見だけです。ご存知の方はご存知のように、いろんな意味で弦楽四重奏を聴くためには条件が良過ぎる(ホント、「条件が良い」ではなく、「良過ぎる」!)ヴェニュですので、楽器マニアの皆様にも、ここで聴かないとどこで聴く、って大プッシュでありまする。現時点で予定されている演目は

ウェーベルン:弦楽四重奏のための緩徐楽章
モーツアルト:弦楽四重奏曲第19番 K.465 《不協和音》
プッチーニ:《菊》
ベートーベン:弦楽四重奏曲第8番 Op.59-2 《ラズモフスキー第2番》

《皇帝》と《アメリカ》、なんてもんじゃなく、いろんな意味で堂々たる勝負曲が並んでおりますので、この団体の力量を見極めるにも最適でありましょうぞ。

なお、急な決定だったので、既にチケットを発売しているサルビアホールの弦楽四重奏シリーズには含まれない「特別演奏会」扱いになります。このラインナップにも挙がってません。
https://musikverein-yokohama.jimdo.com/%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88/%EF%BD%93%EF%BD%91%EF%BD%93%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB-%E3%82%AF%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%83%E3%83%88-%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA/

とはいえ、詳細が決まり次第、ここに発表されるでしょうから、ご関心の向きはちょくちょく眺めに行ってみてください。恐らく、来週火曜日だかのQベルリン東京の会場でも、もうちょっと詳細をつめた告知があると思います。請うご期待。

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《天国と地獄》のリアリティ [音楽業界]

昨晩、六本木交差点から溜池方面にちょっと坂を下った俳優座劇場で、こんにゃく座の《天国と地獄》を見物して参りましたです。
http://www.konnyakuza.com/syusai.html
この公式の宣伝映像が、昨日のキャストさんですな。

お嫁ちゃんが関係者スタッフといろいろ関わりがあって、「こんにゃく座史上画期的なものになる」という話を聞いていて、へええええ、と思って興味本位でくっついていった。なんせ、そろそろ糠味噌になりつつある脳細胞の記憶容量をがあああっと検索しても、過去に舞台で眺めたのは旧第一生命ホール(多分)での室内歌劇場公演くらいしか出てこず、ジュピターっていうと竹澤嘉明さんの姿しか思い浮かばない、ってな情けない状況。音としてちゃんとフランス語で全曲なんで聴いたことあるのかしら。いやはや…

んで、とにもかくにも餃子食って麦酒飲んで、もう半分どーでもいいノンビリ気分で俳優座劇場のこじんまりした空間にちょこんと座った訳でありまするが…なーるほどねぇ、こんにゃく座がいつものやり方でここまで「娯楽」に徹した、という意味では、画期的だったのかもねぇ。

それなりに世代交代は進んでいるとはいえ、林光時代のコアメンバーは未だにピアノに座ったり、音楽差配をやっているわけで(昨晩はヴァイオリンが我らがももちゃん様でなくて、ちょっと残念だったけど。実は「エクのセカンド」のももちゃんさんがこんにゃく座の舞台で劇伴奏の場数を踏んでいるという隠れた事実は、エクという団体を本気で考えるときには結構重要な要素だと常々思って入るのだが、ま、それはまた別の話)、少なくともやくぺん先生らの爺入口世代とすれば、「一緒に歳を取ってきた人達」なわけでんな。

そういう人達が中心にいる今の段階で、ある意味、もうやっちゃえ、という感じで徹底して娯楽性に突っ走った舞台を出し、それが「娯楽」として完成度をもの凄く高めた商業的なものともまたちょっと違う、いかにもこんにゃく座風な足に地が付き方をしている、ってか、洗練され切っていないノンビリさというかが、そんなもんが漂う。これはこれであり、なのかどうか、このキャストの初日を眺める限りは、なんともいえん感じがしたのが正直なところでありまする。

ま、上演についてはそういうこと。当無責任電子壁新聞が言いたいのは、ちょっと違うところ。「このお話、21世紀10年代も終わろうとするニッポン国ロッポンギという空間で、どれくらいリアリティがあるのか?」ってこと。

正直、こんにゃく座がやるということで、ことによると思い切った「読み替え」みたいなものがあるのかとも思っていたわけです。だってねぇ、古代ギリシャ神話のパロディ、なんて言われても、古代ギリシャ神話そのものが「お勉強」しないと判らぬ世界でしょ、殆どの観客とすれば。オペラを散々眺めている人でも、どうなんでしょうねぇ、リヒャルト・シュトラウス後期の作品くらいじゃないと、ゼウスのご乱交ぶりなどなかなか接することが出来ない。いちばん「判りやすい」レベルとしてあるのは、恐らくはオッフェンバックの時代に「同時代」と舞台を繋ぐ役割を担っていたはずの「世論」で、ここをなにやら今風に弄ってくるのかと思ったら、そういうわけでもない。となると、「世間は不倫を許さない」という近代市民社会の一夫一妻制度を前提とした社会の在り方、という他にひっかかりはなくなってくるわけで…

うううん、つまり、「楽しかった」「面白かった」と言うのは簡単だが、じゃあ何が「楽しかった」のか、何が「面白かった」のか、案外、よーわからん。つまるところ、「オッフェンバックの音楽って、滅茶苦茶つよいねぇ!」、なーんて今更ながらの間の抜けた賞賛に過ぎないのかも…しれないし。

こんにゃく座さんを批判したり、舞台の出来をどうこう言うわけではありませんので、悪しからず。ただ、俳優座劇場を出て、目の前に広がる金曜のギロッポンの夜を前に、「♪レダのばあいにわぁあああ~」なーんて気持ちよく鼻歌してる不思議な違和感の無さはなんなんじゃろーなぁ、と思わざるを得ないやくぺん先生でありましたとさ。

こんにゃく座の《天国と地獄》、来週いっぱいのロングラン中。お暇な方は、どうぞ。

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ソウル・フィル?ソウル市立響? [音楽業界]

昨晩、今期NJPで最大の聞き物のひとつ、我らがシュタンツ御大のヘンツェなんぞのプログラムが披露され、ヘンツェよりもなによりも、最後の《英雄》のヴィオラ真ん中に置いてチェロ及びコントラバス含め弦楽器全部左右対称配置、というとんでもないステージに聴衆みんなビックリ仰天。終演後も喧々囂々、溜池近辺は不必要なまでの盛り上がりに包まれておりましたです。

ま、それはそれで、なかなか微笑ましい良い話ではあるわけですが、問題はそこではないっ!昨日の当日プログラムに記されたシュタンツ御大のプロフィルにあった記述でありまする。それに拠れば、「2017年ソウル市立交響楽団Conductor in Residenceに就任。」とある。

そう、皆さんよくご存知のように、ソウルは世宗文化会館に事務局本拠地を定めるあの楽団、チョンさん追い出し騒動の後、すったもんだの挙げ句、首席客演指揮者ティエリー・フィッシャー、レジデント指揮者シュタンツ、という二頭体制が出来上がり、音楽監督はまあいずれそのうち、って感じのことになっている。こちら、公式ページ。
https://www.youtube.com/watch?v=kR7ipP6JrX8

なんで「あの楽団」なんて隔靴掻痒な言い方をしているかといえば、それこそが今、問題にしたいことだからでありまする。

この団体、今や先々代の元大統領となった元李ソウル市長の肝煎りで、ソウル市立管弦楽団を徹底改組し、チョンさんを指揮者に迎え、バスチーユ時代からチョン氏の腹心というか、仕事仲間だったプロデューサーの仕掛けでDGとインターナショナル契約し、0年代後半から10年代初めにかけては実質上インターナショナル・レーベルできっちりCDが定期的に出る唯一のアジア圏のオーケストラとなったことは、皆様ご存知お通りでありましょう。そんな仕掛けが始まった頃は、こんな感じだったわけですな。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2005-09-06

チョンさん時代のこの楽団、基本的には日本語表記では「ソウル・フィル」ということになってました。韓国語では「ソウル市立管弦楽団」だかのままだったのだけど、少なくとも英語の公式名称はそうなっていて、世界的にもそれで通っていた。当時から名称を巡ってはいろいろ面倒なことになっていて、当電子壁新聞でも何度か話題にしてきました。これとか。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2015-12-30
様々な歴史の経緯を踏まえて乱暴に言ってしまえば、「チョン監督時代のパリ・オペラ座のオーケストラの団員が自主的にDGと契約して演奏会用オーケストラを組織し、「バスチーユ管」と名告って録音活動をしていた」というのと同様に、「チョン監督時代のソウル市立交響楽団の団員がまるごとDGと契約し、「ソウル・フィル」と名告って活動し、事務局も外国向けにはその名前に乗ってしまった」という状況だった。わあああ、すげえええ乱暴だが、ま、それなりに正確な認識なんじゃないかな。

なんせ、ソウルには昔から「ソウル・フィル」という名前のオケがあって、オペラのピットに入ったりしてたわけで、考えてみれば乱暴なことをやってたなぁ、と思わざるを得ないが、ま、それはそれ。

んで、時移り、なんのかんのなんのかんの、訳が判らないことがいろいろあり、今はチョンさんは「ソウル・フィル」は振れないし、「ソウル・フィル」の事務局はメンバーがチョンさんが今韓国でやってるフェスティバルオケなんぞへの参加するのを厳禁しているという話も漏れ聞きます。この辺り、どーなってるんですかね。「ワン・コリア管」には「ソウル・フィル」のメンバーは参加していないのでしょうかねぇ。この正月明けにやってたこれとか…
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あ、これはユース管だから問題ないのか。

もとい。韓国の音楽業界の面倒な話はさておき、我が日本語文化圏の話です。このシュタンツ氏のプロフィルを眺めた瞬間、「あ、ソウル・フィル、という表記は使わなくなったのかぁ」と思いました。それはそれで、筋の通った話。「ソウル・フィル」というのはチョンさんプロジェクトの名前で、オケはそもそも「ソウル市立響」だったのである、ということでんな。

んで、「…ということなの?」とNJPのスタッフに尋ねたらぁ…フィッシャー&シュタンツ時代になったこのオケが、「ソウル市立響」と再び公式に名告るようになった、というわけでもないらしい。どうしてこういうことになったか、ちょっと調べてみます、とのことでありました。

ま、それだけといえばそれだけなんだが、やっぱり日本語文化圏の音楽ファンの皆様に、「シュタンツ御大が今、ソウルで振ってるオケは、あのソウル・フィルですよ、チョンさんの後任ですよ」という事実は、是非ともきちんと知っていただきたいのでありまするよ。それだけのことなんだけどさ。ちなみにシュタンツ様、「ソウル市立響」での次の演奏会は、こんなに美味しいもん。
http://www.seoulphil.or.kr/en/perform/concert/detail.do
《ゲジヒネテン》は、シュタンツ様でケルンでお聴かせいただいたっけなぁ。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2013-05-02

以上、平昌冬季オリンピック開幕記念、半島ネタでありました。開会式、オケ、出て来るとしたらどこなんでしょうねぇ。ワン・コリア管なのかなぁ。ってか、オケが出て来るか判りゃせんけど。

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アメリカ合衆国が欧州に出来ること [演奏家]

いくらでもある過去3週間の弦楽四重奏漬けネタから。かなり微妙な話で、あくまでも「書いてあることはみんな嘘、信じるな」をモットーとする当電子壁新聞でのネタですので、そのつもりで。決してどっかに引用したり、言いふらしたりはしないこと。よろしーかなぁ。

アムステルダムのビエンナーレ何日目だか、毎日お昼前には、マスタークラスとか公開リハーサルとか、はたまた作曲家の演奏家を交えたトークとか、そういう時間が用意されておりました。そんなイベントのひとつとして、エマーソンQのヴァイオリン奏者フィリップ・セッツァー氏が地元の若い弦楽四重奏にマスタークラスをする、というのがありましたです。
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正確に言えば、マスタークラスじゃないなぁ。複数の弦楽四重奏奏者を集め、セッツァー御大は第2ヴァイオリンに座り、楽章事に若い奏者を入れ換えながらヴェーベルンの作品9をきっちり解説しながら通しで演奏する、というもの。なんせ各楽章スコアで1ページの超短い曲ですけど、こううやり方で全部通すと、しっかり1時間半くらいかかる。その辺りの時間管理も流石だなぁ、なんて思ったりして。

で、この公開お勉強セッションで、セッツァー氏がいろいろ喋ったわけですよ。作品の中身については、ちゃんと入口で聴衆全員にスコアが手渡され、それを追っかけながら聴ける。「ヴェーベルンのこの曲では、主旋律部と伴奏部がはっきりある」とか、「この部分は猛烈にリズムが難しい、どうやって練習すればいいかといえば…」とか、「第4と5曲は簡単だから…」なんて身も蓋もない発言とか、ま、とてもとても面白い。

それはそれとして、なによりも興味深かった、というか、へええええ、と思わされたのは、まず冒頭一発、セッツァー御大が語り始めたことでした。「私はユダヤ系で、その私がヴェーベルンについていろいろ語るのは…」って。え、と思うでしょ。どーやらセッツァー御大、ヴェーベルンを語るにおいてある種のタブーになっている、ってか、殆どみんな語ることのない、「ヴェーベルンはナチスのシンパであった」というところから話を始めたわけですわ。ヴェーベルンはとても状況に左右されやすい人だった、彼のナチスに対する態度というのも時代の空気に流されたようなもので…って調子。

へえ、そこからかい、でしたね。やくぺん先生のようなノンビリした極東の島国の住民とすれば、ヴェーベルンを語るにそこから始めにゃならんのか、と驚いてしまうわけですよ。でも、セッツァー氏には、それが必要だった。語るのがアムステルダムという場所だからなのか、いつもそうなのか、それは判らないけど。

新ヴィーン楽派の3人の「人となり」を説明するのに、こんな比喩を語っておりました。曰く、「ベルクに「おはようございます」というと、大喜びで周りで飛びまわって、おはようおはよう、と人なつっこくしている。ヴェーベルンに「おはようございます」というと、耳を押さえて、そんなに大きな声で言わないでくれ、としゃがみ込む。シェーンベルクに「おはようございます」というと、それはどのようなコンテクストでどのような意図で言ってるのかね、と問い返してくる」って。

テープを回していたわけじゃなく、もう1週間も前の話を記憶で書いているので、この通りの言葉で仰ってたわけじゃ無いだろうから、雰囲気だけ判ってください。でも、なんか、とっても納得するでしょ。聴衆も爆笑でした。

ついでに、なんかの拍子でヴェーベルンの殺され方の話になった。皆様ご存知のように、煙草を吸おうと家の外に出て火をつけたら、戦後進駐してきた米軍の兵士に不審な行為と思われ何かを言われたが、英語だったので判らずぼーっとしていたら、兵士は規定に従い不審者と判断しヴェーベルンを銃撃し、ヴェーベルンは殺された、という史実ですね。この話にはまだ続きがあって、ヴェーベルンを撃ち殺した米兵はチェロ弾きだったそうな。いくら軍命令に従ったからといえ、自分がしてしまったことに大いに悩み、精神的におかしくなり、酒浸りになり、数年で亡くなった、という。これ、知りませんでした。誰でも知ってることなんだろうなぁ、ちょっと恥ずかしいけど、知らないまま死なないで良かった。うん。

これらの話、極めて具体的なヴェーベルンらの人となりから楽譜の読み方まで、考えてみれば1951年生まれのセッツァー氏が直接知る筈がない。なんで彼がいろいろ知っているかと言えば、その師匠フェリックス・ガリミアから散々聞かされた、ということ。3人の作曲家の人となりについても、ガリミア先生が仰ってたことだそーな。新ヴィーン楽派の室内楽に直接関わり、ナチスに追われて北米に渡り、今の音楽史で「楽園への追放」と言われる状況を担った代表的な人物でありますな。

やくぺん先生も一度だけ、いろんな状況で大変にご機嫌が悪いときにインタビューさせていただいたことがあるだけなのだが、ガリミア先生はジュリアードやらラサールやら(でしょ、違ったらゴメン)、はたまたエマーソンやらに、大戦間時代欧州の「演奏伝統」をきっちり伝えた。そういう人達は多くはユダヤ人だったりしたため、多くがソ連かアメリカ大陸に逃げた(イギリスに逃げた連中が、アマデウスQを作ったりしているけど)。戦を離れた平和な、自由な場所で、大戦間時代、はたまたそれより前からの「伝統」を、若い世代に伝えた。戦後なにもなくなった欧州からわざわざ北米に留学し、それらを学んだ者らも、アルバン・ベルクQを筆頭に、いくらでもいる。

セッツァー氏のヴェーベルンについての言葉の向こうには、常にガリミア御大の存在がある。そして、それを、今の若い欧州やアジアの学生らに伝えようとしている。

なるほどねぇ、これがアメリカ合衆国が欧州に出来ることなわけか。エマーソンQが偉いのは、グラモフォンからいっぱいCDが出ているからじゃあなくて、そのやっていることの後ろに付け焼き刃ではないしっかりとしたバックグラウンドがあるからなのであーる。

ヨーロッパにとって「歴史的な情報に基づいた演奏」は、自分らがぶち壊してしまった「伝統」はそれはそれとして、その遙か向こうに遡ることで己のアイデンティティを確認する作業なんだよなぁ、なんてあらためて思ったりもして。

それにしても、かのトランプ大統領様は、「アメリカ」がそういう機能を果たす場所である、あった、ということは、特になんとも思ってらっしゃらないのでありましょうねぇ…嗚呼。

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優勝団体に遭いにいく・その9:第7回メルボルン国際室内楽コンクール弦楽四重奏部門第1位ノガQ  [弦楽四重奏]

まだまだ続く「優勝団体に遭いにいく」シリーズ、つらつら考えるに、先週までの実質3週間のツアーで聴いた弦楽四重奏団の中で「優勝団体」と呼べる連中を列挙するだけでも、ええと、アルテミス、ドーリック、ツェムリンスキー、ファン・カイック、ヘルメス、エベーヌ、カザルス、ロルストン、アキロン、マックスウェル、ノガ…おいおい、こんなにコンクールはあるのかぁ、と言いたくなるけど、実際、そういうもんだからしょーがないわね。

てなわけで、遭ったのはもう10日も昔だけど、別に急ぐネタでも無いので、今回の御題はノガQでありまする。ほれっ。
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メルボルンの時の様子は、こちらを参照。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2015-07-18
この記事でもお判りのように、ノガQは優勝はしたものの、もっと大事とも言えるムジカノーヴァ賞はジョコーソQが持って行き、オーストラリア大陸でのキャリアを作るチャンスを失ってしまったという可哀想な状況だった。へえ、そういえば、現時点でかのストラディヴァリウスのパガニーニ・セットを貸与されているクレモナQは、このときに3位だったのかぁ。うううん、なる程なぁ、優勝って、どれほど意味があるのかと思っちゃいますねぇ…

あのメルボルンからもう3年、いよいよこの夏、というか、現地では冬の最中に第8回が開催されるわけでして(って、メルボルン大会って4年に1度じゃなかったかぁ?)、前回の優勝団体がどうなっているか、大いに気になるところでありまする。

このノガQ、非常に不思議でした。そりゃ、ムジカヴィーヴァ賞は他に譲ったとはいえ、天下のメルボルンの優勝団体、その後に少しはあちこちで名前を見るかと思えば…うううん、なぜかまるで見ない。無論、世の中には、アルテミスとかアポロ・ムサゲーテとか、大きな大会で優勝した後にマネージャーさんや周囲が戦略として少し寝かせる、というか、1シーズンくらいは可能な限り表に出さず、じっくり自力を養った上でガッツリと世に出していく、というやり方をした団体もある。それはそれで、大いにあり得るでしょう。特にこの10年くらいは、意識的に「可能性」を選ぶ大会も増えてきているので、考え方としては判ります。ロスルトンなんて、正に「バンフ・センター挙げて修行中」って感じですもんねぇ。アムステルダムにはバリーも来てたし。

ノガQの名前を見ないのはそういう理由なのかとも思っていたが、それにしては時間がかかりすぎている。もう次の大会が見えてきているというのに、タイミングとしてもマズかろう。そんなわけで、アムステルダムの最初のビエンナーレが「各地の大会優勝団体揃い踏み大会」をやってくれたのは、非常に有り難かったわけです。おお、やっと苦労人ノガが聴けるじゃ無いかぁ、ってね。

ぶっちゃけ、ノガQ、メイジャー大会優勝から3年という状況で、そのタイトルに相応しい状況でありました。基本、極めて真面目な団体で、悪く言えば尖った部分はなく、安定してちゃんとしている。メンバーが交代して、実質上別団体やら活動停止になってしまったわけではない(フォルモサとか、いろいろ頭に浮かぶなぁ)。

どうして彼らが欧州若手マーケットに乗ってこないのか、やっぱり不思議だなぁ、と思い、チェロくんと立ち話をしたわけです。たら、疑問は一発で氷塊しましたです。曰く、「僕たち、マネージャーがまだいないんですよ、ええ、拠点はベルリンで、もの凄くいっぱい練習の時間も取ってますし…」

要は、ノガQはベルリンのメイジャーオケのメンバーがやっている団体である、ということなんですわ。なんせ、第1ヴァイオリンのシモンくんは、こういう人。
https://www.berliner-philharmoniker.de/en/orchestra/musician/simon-roturier/
え、これってベルリンフィルの公式ページじゃないの、と思ったでしょ。その通り、ノガQの第1ヴァイオリンは、天下のベルリンフィルの正規団員なんですわ。それどころか、これが第2ヴァイオリンさんLauriane Vernhesのプロフィル。
https://www.dso-berlin.de/de/orchester/personen/orchestermitglieder/
これもベルリン・ドイツ響のページだろーに、ってね。ヴィオラさんもどこかのオケにいるそうで、チェロくんは「僕は弦楽四重奏に専念です(笑)。」

なるほどねぇ。言うまでもないと思いますけど、ジメナウアー以下、ヨーロッパの主要室内楽系マネージャーさんは、「オケメンバーが加わった弦楽四重奏団」は、基本的に扱いたがりません。特に若い団体の場合はなおさらです。理由はハッキリしていて、マネージャーが仕事持ってきても、そのときに常にその団体が使えるか判らないからです。既に偉い団体になっていれば、「彼らは今シーズンは何月から何月と、何月から何月しかやれません」と世間に言ってしまっても構わない。買う方は、それでもやりたい、と思いますからねぇ。ところが若い連中の基本は、「ともかく金にならなくても数をこなす」です。オケのメンバ-、それもベルリンフィルともなれば、コンマスやソロ首席クラスでない限り、自由に休みを取るなど不可能。ダニエル・ベル氏の苦悩を今更言うこともないでしょう。

オーケストラ団員でも、全員が同じオケなら、オケの室内楽定期に出して貰ったりして、キャリアを作っていくことが出来る。これはもう、所謂「常設弦楽四重奏団」というものが実質存在しない20世紀前半までのヨーロッパでは常識だったし、今でも旧東欧系などでは基本です。だけど、彼らは同じベルリンとはいえ、違うオケにいるからそういうわけにもいかないし。

てなわけで、なぜノガQがそれなりの自力があるのにマーケットに乗ってこないのか、極めてはっきり、簡単に判ってしまったわけでありまする。無論、本人達は弦楽四重奏をやりたいと思ってあれこれ頑張っているわけだが、さても、こうなるともう、ノガ会社とすれば、初めから「インディーズ」を狙っていくしかない、ということになるわけですわ。まさか、弦楽四重奏のためにベルリンフィル辞めろ、とは言えないもんなぁ。

ノガQ、ともかく、演奏会を目にしたら聴きに行ってあげてください。その価値はありますし、こういうやり方でどこまでやれるか、ひとつの実験として見ていきたいものですし。

なんか、ニホン国なら常識だわなぁ、この話。いやはや。

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できたての会社たち [弦楽四重奏]

弦楽四重奏漬けの日々を終え、湾岸帝都に戻ってそのままやっぱりトウキョウの濃ゆぅいクァルテットな人々の中に飛び込み、新開地葛飾で久しぶりに小さな飛ぶ方々の冬の営みを眺め少しだけ心を和ませ、湾岸に戻って参りました。んで、全くなーんにも考えていなかった今月から来月頭の日程を慌てて埋め始めたら、おいおい、まだこの数週間の勢いが止まっていないのか、って状況になってるぞ。

なにせ、本日午後7時からは銀座ヤマハの6階サロンでタレイアQ
https://www.yamahamusic.jp/shop/ginza/event/yamaha_ginza_chamber_music_salon_conert-2018.html
明日は鶴見のサルビアホールでQアマービレ
https://musikverein-yokohama.jimdo.com/%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88/%EF%BD%93%EF%BD%91%EF%BD%93%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB-%E3%82%AF%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%83%E3%83%88-%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA/
んで、来週にはやっぱりサルビアホールで…Qベルリン東京、だもん。まだパリやアムステルダムのビエンナーレ、ハイデルベルクのエレーナおばさまコンクールが続いているんかぁ。

今日明日と帝都近辺の100席規模のサロンで立て続けに演奏会を行うタレイアとアマービレに関しては、まあ、当電子壁新聞を立ち読みなさってる皆さんなら、説明は不要でありましょう。両団体とも、今、正に「国際コンクールに打って出る」くらいのキャリアの真っ最中。無論、両者は微妙に違っていて、アマービレの方が半歩から一歩くらい先かな(コンクール結果などの経歴ではなく、クァルテットという零細ヴェンチャー・ビジネスやってる会社の立ち位置として、ということです)。これくらいのところだと、もう「どれだけ合わせる時間があったか」がモロに演奏結果に反映してくるし、誰と共演するか、最近誰に習ったかがまんまミエミエになる。ベルリン東京くらいになると、もう誰に習おうが、どれくらい合わせていようがいまいが、ある程度以上の水準は保証されてくるわけだが(それがプロというものです)、まだそういう訳にはいかない。逆に言えば、もの凄くしっかり準備して臨めば、ビックリするような演奏が繰り広げられることもあるわけです。

そういう連中を聴き、あれこれどのこーの言うには、出来るだけ数を付き合わねばならない。上手くいくときばかりではなく、ボロボロになるところなどもしっかり眺めることで、「なるほどこういう連中なのね」と判ってくる。ま、将来的には、若い頃の酷いところを見られていることになるんで、結果として嫌われたり敬遠されたりすることもあるわけだが、ま、それはこの商売、仕方ない。もう、そう思うしかありませんです。

やくぺん先生、このところの「引退」宣言は、「俺はもうそーゆーことには付き合わんぞ」という意味でもあるのだけど、流石に眼前に広がる帝都の空の下で始まったばかりの若いクァルテット会社がふたつ、今の彼女ら彼らとすれば考えられるいちばんメイジャーに近い形での演奏会があるのだから、こりゃあ流石にボーッと縦長屋に座ってるわけにもおるまいて。

現時点、本当にこの瞬間での両団体の美点を挙げれば…

★タレイアQ:ともかく、今の学生を終わりかけてているくらいの連中の中で、「クァルテットでなんとかしたい」という気持ちがいちばんはっきりと表に出ている連中。技術があろうが時間があろうが、この「クァルテットでなんとかしたい」というアホみたいな情熱がないと、この時期は乗り切れない。クァルテット会社が存続し続ける必要最低限の、だけどいちばん大事な、条件はクリアーしている。つまり「いろんなこともやりたいんですけどぉ、クァルテットもやりたいんですぅ」というだけではないようだ、ってこと。メンバーの半分くらいが学校を終え、住んでるところも離れているようで、これからが会社としてのマネージメント能力をホントに問われるところにさしかかってきている。とにもかくにも7月のメルボルン大会に出場が決まっていますので、目標はハッキリしておるわけでんな。写真は、去る秋のトロンハイム大会。
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★Qアマービレ:個々の技術と資質はしっかりあり、条件が整えば文字通り「百戦錬磨のプロ顔負け」(彼女ら彼らもプロですけどね、言うまでも無く)の演奏もあり得る。それなりに弾くチャンスも貰える立場になっていて、常に万全の力を発揮出来るよう会社としての管理が必要になってくる段階に来ている、ということでんな。4月のロンドン大会ではファイナリストに一角に食い込んで欲しいし、その自力はある団体。

さても、この似たようで微妙に違うステージに立つふたつの振興クァルテット会社が、はたしてどんな製品を人々に出してくるか。それも、「大きなお祭りの中のちょっっと微笑ましい若者頑張れイベント」ではない状況。

ぐぁんばれ、と言うのは簡単だけど、頑張ってもらっちゃった先にどうするか、なんとも中途半端な気持ちのままで、やくぺん先生は今晩の銀座へとチャリチャリ向かうのであーる。お暇な方は、是非どうぞ。残念ながら、明日の鶴見は売り切れだそうですけど。

[追記]

今、チャリンチャリンと銀座ヤマハのサロンというところまで来ました。50席くらいの空間。上のホールではスター宮田大氏のコンサートで、エレベーターが大混乱です。
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アホみたいな感想だけど…おやーずが若いなぁ!

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シジュウカラ・レストラン再オープン! [葛飾慕情]

欧州三都市弦楽四重奏漬け+αの3週間と少し、「引退」宣言を撤回せざるを得ないような事態に己を追い込むアホな仕込みツアーの最中、なによりも心配だったのは伝えられていた東京地区の大雪でありました。なんせ、葛飾オフィス巨大柿の木下のシジュウカラ・レストラン、冬は乾期晴天続きと信じ込んでる関東の東夷としては当然ながら雪への対応なんぞ全く考えておらず、あそこに雪が積もったらひっくり返るんじゃないか、果たしてどーなっておることじゃろーかいな。

調べてみると、1月11日に書類などを取りに来たのが最後。そのときは、こんな状態。
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佃のセレブなブンチョウさまたちがお残しになられた残飯が詰め込まれたフィーダーをお目当てに、向かいの電柱の変圧器内部にお家を構えてしまった雀たちの一群がいるようで、こんな調子で寒くご飯のない冬を乗り切る便利な場所に利用しておった。前の冬にはこういう連中はおらず、フィーダーのブンチョウさま残飯は一冬でもなくならなかったような気がするのじゃがのぉ。小さな飛ぶ方々の情報伝達システムは、わしらにはよー判らんもんじゃ。

んで、レストランの面倒をみずに雨風雪に曝しっぱなしにして20と数日。昨日朝に湾岸に戻り、まるでアムステルダムのビエンナーレが東京でも続いているような空気のエクの演奏会で西村朗氏にプレトークをしていただくために初台に駆け込み(実際、海胆頭で、「こういう感じのことを話してください」と事前打ち合わせをして、あとは座ってタイムキーパーしてただけの情けなさ)、やっとツアーが全部終わったおわったぁ、と今日の昼過ぎに葛飾オフィスに久しぶりにやって来てみれば、おおおおお、なんてこった。
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シジュウカラ・レストラン、ものの見事にスッカラカンではありませんかぁ!

最寄りの某私鉄駅から駅前を抜け、今はすっかり住宅地になってしまい最後に残された町工場に向けて真っ直ぐ、隣の葛飾オフィスまで連なる道に入ると、もう遙か向こうの柿の木周辺で大騒ぎしている性悪ヒヨちゃんやら、民家の軒先に出された鉢植えの花に張り付いてるめじろんやら、そいつらを「美味しそうだなぁ」と眺めている野良猫共の姿が見えてくるものなのだが、猫様たちは別として、飛ぶ方たちの気配がまるでなかった。なるほど、これじゃあねぇ。

それにしても、フィーダーがカラッポになってしまっているのはさもありなんとして、前の冬にはまるで人気がなく、今回も独逸国のスーパーで補充を買っては来なかったエナジーボールが、ぜーんぶ綺麗になくなってるのは、ちょっと驚き。これ、絶対に飛ぶ方々が喰っちゃう以外に無くなることはあり得ないもん。誰が喰ったんじゃろか?輪っか飯の中身を細く詰め込んだやつだけが残ってる。これ、人気無いなぁ、やっぱり。補充を買おうか悩んだんだが、買わなくて良かった。うん。

とにもかくにも、佃から運んできたブンチョウさまらの3週間ちょいの食い残しと、パリ及びハイデルベルクのスーパーで買い込んだ食材を背負子から引っ張り出す。シジュウカラ輪っか飯3パック、シジュウカラさんやあおちゃんが好きそうなものを固めたハート型のご飯、それに油こってりのシジュウカラ・カップ飯じゃぞ。
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ひとつだけ残っていたエナジーボールのストックを探し出し、せっせとレストランのセッティングに励む聖フランチェスコならぬやくぺん先生なのであった。

せっかくだから、レストラン再オープンを記念し、蜜柑と、冷凍庫から引っ張りだし隅っこはやくぺん先生が美味しく囓ってしまった巨大柿の木からもがれた冷凍渋柿も、特別に出してあげよーじゃないかい。ほれっ。葛飾巨大柿の木下シジュウカラ・レストラン、リニューアル再開じゃ、皆の衆!
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再オープンから間もなく、早速、ぎゃーぎゃー、という雄叫びが荒川放水路向こうの新開地に響き渡るっ!
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「ごはんだぎゃぁ、またごはんが出ただぎゃああああああ!」と大喜びで世間に告げるのは、やはり凶悪狂暴ヒヨちゃんであった。うううん、日本列島でニンゲンが冬場にカラさん類にご飯をさし上げる習慣が今ひとつ根付かないのは、絶対にこの方々故だろうなぁ。なんせ、こんな「誰にもやらんじゃぎゃあああ!」ってキャラの奴、欧州にはいらっしゃいませんからねぇ。ロビンくんも鶸さんらも、こんなに凶悪じゃあないもん。

ま、それはそれ、やくぺん先生とすれば、あんたらにはあげないような工夫をするなんて気も無い。「お庭に可愛いシジュウカラやメジロを呼ぶには」…なんてハウツウ情報には、「性格が悪いヒヨドリが独占しようとするから、対応策としてあれをしろこれをしろ…」と記されているものでありまする。だけどヒヨちゃんだって、たまたまこの島に一緒に生まれてしまった貴重な列島固有種。性格が悪いから、クロウタドリやコウラウンみたいに声が綺麗じゃないから、ロビンやめじろんみたいに可愛くないから、って理由でご飯をやらんわけにもいかんでしょ。

やがて、つつぴぃ、というお声もしてまいりました。ほれっ
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主賓の皆様が様子見にいらしてくださいましたです。果たしてホントに輪っか飯やらカップ飯を喰らってくださるか、まだなんとも判らんものの、少なくともひとつのご夫婦がこの辺りを動きまわってるようじゃ。

葛飾シジュウカラ・レストラン、再開いたしました。この先、旧正月を越えて桜が咲くくらいまで、お店を出す予定でありまする。葛飾近辺の小さな飛ぶ皆様、ずずずぃいいいいといらっしゃいませぇ。

随分と日は延びたといえ、新開地の冬、まだまだ続く。

柿の実に ヒヨちゃん叫び 春まだき

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優勝団体に遭いにいく・その8:第6回大阪国国際室内楽コンクール第1部門第1位ドーリックQ [弦楽四重奏]

アムステルダムの弦楽四重奏ビエンナーレ、もう何日目になったのかも判らない木曜日の夕方、ムジークヘボウの3階ロビーに座ってます。今、ロイスデールQがアンドリーセン、ベリオ、ケージ、それにバッハを挟む、という絵に描いたような「20世紀後半の著名作曲家の弦楽四重奏選」をやり、連日会場にいらしているご当地在住のアンドリーセン御大がクァルテット前に延々と15分くらい、オランダ語で独演会をやらかしてくれました。やたらお元気でありました。

さても、「優勝団体に遭いに行く」シリーズもすっかり回を重ね、番外編抜きでも8回目となったわけですが、いよいよ大物の登場でありまする。10年前の大阪で優勝し(第3位にガラテアとノブスが入ったのも印象に残る大会でありました)、その直後にレッジョ・エミリアに乗り込んでなんと第5回大阪大会優勝のベネヴィッツQと「大阪夏の陣・イタリア編」ともいうべき歴代優勝団体対決という事態になり、惜しくも優勝は先輩に譲って2位となったあと、今やイギリス若手ではトップのキャリアを積んでいるイングランドにーさんたち、ドーリックQであります。

とはいうものの、5年前からヴィオラはオランダ人のレディにかわっていて、今日も久しぶりに眺めたら「あれぇ、セカンドもかわったのかい」と思ったんだけど、童顔だったにーちゃんが髭はやしてオッサンぽさを醸し出してただけでありましたとさ。ちなみに、ヴィオラ君については、こちら参照。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2016-07-27

レッジョでは審査員の内部で大いに割れたらしく、若くして初の審査員仕事をしていたオリーくんなんぞが困った顔をしていたっけ。要は、ドーリックQのアプローチは、10年前にはまだまだ野心的、ってか、ぶっちゃけ、「ピリオド奏法を意識した再現」に一部の長老先生たちから相当に拒否反応もあって、大阪ではあっさりと「だって、いちばんよかったでしょ、彼らが」って感じで問題なく優勝を飾ったわけですが、レッジョではそういうわけにもいかなかった。なんか、いかにも大阪らしい話でありまする。これ、皮肉ってるんじゃなくて、褒めてるんですからね!

そんなドーリックQ、今や長老となりつつあるベルチャQと並び、英国若手のホープになっている。大阪優勝団体では、文句なしの二枚看板、って感じですね、音楽メディア的には。ここアムステルダムでも、ダネル、カザルスと共に金曜日の夜のガラコンサートを担当する3つの看板団体のひとつになってます。いやぁ、偉くなったもんだなぁ。

ビエンナーレには本日から登場するドーリックの面々、まずは午前11時半から「最初のリハーサル」という公開リハーサルに登場しました。
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今晩、深夜の演奏会で弾く《大フーガ》を120人くらいの聴衆の前で頭っから練習する、というイベント。なんせ、やり合ってる真っ最中に聴衆が手が上げて平気で質問する、なんて世界。彼らがこの些か特殊な楽譜にどう対するかを見せながら、クァルテットというものはどういうものなのか説明する、というイベントでありますな。

興味部会のは、弓を2本持ってきたこと。現代曲でもやるのかと思ったら、そうじゃない。ひとつはモダン弓で、もうひとつは最近急に耳にするようになった「移行期時代の弓」だそうな。つまり、バロック弓とモダン弓の間くらい、正にハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン頃の時代の弓でんな。どうやらオランダに作ってる職人さんがいるそうで(南米の人らしい)、このフェスティバルは今回は意識的に古楽系は避けているのだけど、やっぱり場所柄聴衆にも関心があるようで、《大フーガ》の繋ぎの弱音で推移する部分をモダン弓と「移行期時代弓」とで弾き分け、ほらね、なーんて。

いやぁ、やっぱり、しっかりドーリックしてるじゃんかぁ。

てなわけで、あと20分くらいでドーリックQの最初の本番が始まります。風雲児はやっぱり風雲児なのか、じっくり聴かせていただきましょか。まずはハイドンと、アデスの《4つの四重奏》。アデスのこの曲って、まさか、T.S.エリオットの韻文がネタなのね、知らなかった…畏れ多いことするなぁ、アデス様ぁ。

[追記]

その後、ビエンナーレではハイドン1曲、ベートーヴェンの作品130&《大フーガ》、それにブリテン全曲を聴きました。結論から敢えて暴言すれば、今、欧州30代ではいちばん面白い団体だと断言しますっ!ないよりも驚いたのは、作品130の第4楽章でした。リズム面を余り強調されることがないこのを、しっかり「ドイツ舞曲として捉え、移行期時代の弓のフレージングのキャラを万全に利用した、これまで全く聴いたことがない音楽を作ってました。いやぁ、こういうことが出来るんだなぁ、と感心すること仕切り。この団体、特にハイドンで顕著なんだけど、「弦楽器を弾く楽しさ」が素直に出て来るのがなにより嬉しいです。

ちなみにハイドンはウィグモアホール・レーベルで全曲録音中だそうな。それも当然でしょう。来年の10年ぶりの来日を大いに期待せよっ!

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